はじめに
こんにちは、ギネのあっちゃんです。
最近、SNSやネット広告で「打つだけでやせる」「GLP-1ダイエット」といった言葉を見かけることが増えました。もともと糖尿病や肥満症の治療薬として使われているGLP-1製剤が、「やせ薬」として自由診療やネットで広く出回っています。
今日お伝えしたいのは、GLP-1製剤とピル(低用量ピル:OC)の飲み合わせのこと。一部のGLP-1製剤は、ピルの避妊効果を弱めてしまうおそれがあります。しかも、GLP-1製剤を使っている間は、妊娠しないようにしっかり避妊をすることがとても大切な薬です。
「やせたい」と思ってGLP-1製剤を使っている若い女性にこそ、ぜひ知っておいてほしい内容です。
GLP-1製剤ってどんな薬?
GLP-1は、食事をとると腸から出るホルモンのひとつです。GLP-1製剤は、このホルモンと同じように働く薬で、次のような作用があります。
- すい臓に働いて、血糖値を下げる
- 胃の動きをゆっくりにする(食べ物が胃にとどまる時間が長くなる)
- 脳の満腹中枢に働いて、食欲をおさえる
この「胃の動きをゆっくりにする」「食欲をおさえる」作用によって体重が減るため、「やせ薬」として注目されるようになりました。
代表的な薬には、次のようなものがあります。
| 成分名 | 主な商品名 |
| チルゼパチド(GIP/GLP-1受容体作動薬) | マンジャロ、ゼップバウンド |
| セマグルチド | オゼンピック、ウゴービ、リベルサス(飲み薬) |
| リラグルチド | ビクトーザ、サクセンダ |
| デュラグルチド | トルリシティ |
日本で承認されているのは、2型糖尿病や、一定の基準を満たす肥満症の治療です。日本糖尿病学会や製薬会社は、美容やダイエット目的での使用(適応外使用)について注意を呼びかけています。糖尿病のない方が使ったときの安全性や効果は、十分に確かめられていません。
なぜピルの効果が弱まるの?
ピルは、飲んだあと胃や腸から吸収されて効果を発揮します。GLP-1製剤で胃の動きがゆっくりになると、ピルの吸収のされ方が変わり、避妊効果が弱まるおそれがあります。
とくに注意が必要なのが、チルゼパチド(マンジャロ、ゼップバウンド)です。GLP-1に加えてGIPという別のホルモンの作用もあわせ持ち、胃の動きをゆっくりにする作用が強い薬です。日本の添付文書でも、経口避妊薬は「併用注意」とされ、使い始めや増量したばかりの時期に、ピルの効果を弱めるおそれがあると書かれています。
薬によって注意点が違います
英国の性と生殖に関する専門学会(FSRH)は、GLP-1製剤とピルについて、次のように推奨しています。
チルゼパチド(マンジャロ、ゼップバウンド)を使っている方
- ピルだけに頼らず、コンドームを併用するか、飲み薬以外の避妊法に切り替える
- とくに使い始めの4週間と、量を増やしたあとの4週間は必ず
セマグルチドなど、そのほかのGLP-1製剤を使っている方
- ピルの効果への影響は小さいとされ、コンドームの追加は必須ではありません
- ただし、ひどい吐き気・嘔吐・下痢があるときは、ピルがきちんと吸収されないことがあります
どの薬でも共通すること
- GLP-1製剤を使っている間は、確実な避妊を続ける
- 嘔吐や下痢が続くときは、ピルの「飲み忘れ」と同じ扱いになることがあるので、処方を受けている医師に相談する
なお、飲み薬以外の避妊法としては、ホルモンを出す子宮内システム(ミレーナ)やコンドームなどがあります。GLP-1製剤の影響を受けない方法なので、婦人科で相談してみてください。(海外で使われている銅付加IUD(銅を付けた子宮内避妊具)は、現在、日本では使えなくなっています。)
GLP-1製剤を使っている間は「妊娠しない」ことが大切
GLP-1製剤は、妊娠中には使えない薬です。おなかの赤ちゃんへの安全性が確かめられていないためです。
さらに、薬が体から抜けるまでには時間がかかるため、妊娠を考えるときは、妊娠を目指す前に、少なくとも次の期間は薬をやめておく必要があります。
| 成分名 | 妊娠を目指す前に最低でもやめておく期間 |
| チルゼパチド(マンジャロ、ゼップバウンド) | 1か月 |
| セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ、リベルサス) | 2か月 |
これは「これだけあければ十分」という期間ではなく、最低限守ってほしい期間です。この期間も、確実な避妊を続けてください。妊娠を考え始めたら、薬をやめる前に必ず医師に相談しましょう。
GLP-1製剤を使っている間に妊娠すると、どんなリスクがあるの?
日本の添付文書では、GLP-1製剤は妊婦さん、妊娠している可能性のある方には使わないことになっています。その理由として、次のようなことがわかっています。
動物実験で、赤ちゃんへの影響が報告されています
セマグルチドでは、妊娠中の動物にヒトに使う量と同じくらい、またはそれより少ない量を投与した実験で、胎児の死亡、形の異常(奇形)、発育の遅れが報告されています。チルゼパチドでも、動物実験で胎児の発育の遅れや形の異常が報告されています。
これらは、薬で母体の食事量や体重が減ったことが影響している可能性も指摘されています。ただ、いずれにしてもおなかの赤ちゃんにとって安全とはいえないということです。
ヒトでの安全性は、まだ十分にわかっていません
ヒトでは、妊娠中にわざと薬を使って調べる研究はできないため、妊娠に気づかずに使っていた方を追跡した調査(観察研究)が中心です。これまでに、次のような報告があります。
- 北欧・米国・イスラエルの大規模調査(2024年):2型糖尿病の妊婦さん5万人以上を調べたところ、妊娠前後〜妊娠初期にGLP-1製剤を使っていても、インスリンを使っていた場合と比べて、生まれつきの大きな病気(先天異常)は増えていませんでした。
- 欧州の6つの施設による調査(2024年):糖尿病だけでなく肥満症の治療で使っていた方も含めた168例で、先天異常の割合は、使っていない糖尿病・肥満の女性と差がありませんでした。
- デンマークの全国調査(2026年):先天異常や流産の増加はみられませんでしたが、早産のリスクが高かったと報告されています。
これらの結果をまとめた解析でも、「先天異常がはっきり増えるという証拠はない」とされています。ただし、どの研究も使っていた妊婦さんの数が少なく、主に妊娠初期までに使っていた場合のデータです。妊娠中も使い続けた場合のデータはほとんどありません。とくにチルゼパチドは新しい薬で、ヒトの妊娠でのデータがまだ非常に少ないのが現状です。
つまり、「妊娠に気づかずに少し使ってしまった」場合に過度に心配する必要はないかもしれませんが、安全だと言い切れるデータはまだないということです。だからこそ、使っている間と、やめてからの一定期間は、確実な避妊が大切なのです。
母体の栄養不足も心配です
GLP-1製剤は食欲をおさえて、食事量を減らす薬です。妊娠初期は、赤ちゃんの脳や神経、臓器がつくられる大切な時期。この時期に母体が栄養不足になると、赤ちゃんの発育に影響するおそれがあります。また、薬の副作用の吐き気・嘔吐がつわりと重なると、脱水になりやすくなります。
もし、使っている間に妊娠がわかったら
- すぐにGLP-1製剤の使用をやめる
- できるだけ早く産婦人科を受診し、いつからいつまで、どの薬をどれくらい使ったかを伝える
- 不安なときは、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」に相談することもできます
妊娠がわかったからといって、ひとりで判断せず、まずは医師に相談してくださいね。
もうひとつ知っておいてほしいのは、体重が減ると、排卵が戻って妊娠しやすくなることがあるという点です。とくに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などで生理不順だった方は、やせたことで排卵が再開し、思いがけず妊娠することがあります。
「生理不順だから大丈夫」「ピルを飲んでいるから大丈夫」と思っていると、予期せぬ妊娠につながりかねません。
緊急避妊が必要になったら
避妊に失敗したかもしれないときは、できるだけ早く婦人科に相談してください。GLP-1製剤が緊急避妊薬(アフターピル)の効果に影響するかどうかは、まだデータがありません。海外では、もっとも確実な緊急避妊法として銅付加IUDがすすめられていますが、日本では現在、銅付加IUDは使えません。緊急避妊薬を使うときも、GLP-1製剤を使っていることを医師や薬剤師に伝え、その後の避妊について相談しましょう。
若い女性にこそ知ってほしいこと
GLP-1製剤は、本来、病気の治療のための大切な薬です。手軽な「やせ薬」として使うと、吐き気や便秘などの副作用だけでなく、今回お話ししたような避妊や妊娠に関わるリスクもあります。
- GLP-1製剤を使うなら、医師の診察を受けて、ほかに飲んでいる薬(ピルなど)を必ず伝える
- チルゼパチドを使うなら、ピルだけに頼らない避妊を
- 使っている間と、やめてから最低でもチルゼパチドは1か月・セマグルチドは2か月は、確実に避妊を
- 妊娠を希望するときは、事前に医師に相談して計画的に
- 嘔吐や下痢が続くときは、ピルの効果が落ちている可能性を考える
ダイエットや避妊のこと、ピルのことで迷ったら、いつでも婦人科に相談してくださいね。当院(もぐさ園三沢台診療所 婦人科)でも、ピルや避妊のご相談をお受けしています。
ギネのあっちゃん
参考資料
- FSRH(英国性と生殖のヘルスケア学会):GLP-1受容体作動薬と避妊に関する声明(英語)
- PMDA:マンジャロ皮下注 添付文書
- PMDA:ウゴービ皮下注 添付文書
- Cesta CE, et al. Safety of GLP-1 Receptor Agonists and Other Second-Line Antidiabetics in Early Pregnancy. JAMA Intern Med. 2024;184(2):144-152.
- Dao K, et al. Use of GLP1 receptor agonists in early pregnancy and reproductive safety: a multicentre, observational, prospective cohort study based on the databases of six Teratology Information Services. BMJ Open. 2024;14:e083550.
- Periconceptional GLP-1 receptor agonist exposure and obstetric outcomes: a Danish nationwide cohort study. Hum Reprod Open. 2026.
- Periconceptional use of GLP-1 receptor agonists and the risk of major congenital malformations: a systematic review and meta-analysis.
- 国立成育医療研究センター:妊娠と薬情報センター
- 英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の注意喚起(2025年6月、英語記事)

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